ALONES
…、
今、なんて——。
通り過ぎた男の残像が、僕の記憶の奥底を掘り返す。
走馬灯の如く駆け巡る記憶が、瞬時に呼び起こしたものは。
「――—は、」
間も無く、思い出した。
窓から身を乗り出した男が叫んでいた言葉は「グータ。」
そしてその意味は――。
僕は息を飲むと、キーラの手を引き、できる限り足早にその場から立ち去った。
すると近くにいた別の男が、家の男に向けて手を振る、その瞬間。
男がタライの中身を道路にぶちまけたのだ。
嫌な音と、異臭。
キーラは両頬に手を添え声にならない悲鳴を上げ、僕は忘れかけていた庶民の事情を思い出す。
男が道に投げ捨てた“それ”は、要するに“残飯と排せつ物”で。
周りの人たちは、それをさも当たり前のように放置し、何事もなかったように生活している。
先程の「グータ。」という叫び声は、「今から捨てるぞ。」の合図。
国は違えど言葉が一緒ならば、きっとそうなのだろう。
かつて、僕が街に行った時も確かそうだった。
貴族たちが纏う華やかな衣装がくすんで見えるほどに、彼らは…僕たちは、おかしな生活をしていた。
…孤島にいたから、忘れてしまっていたのだ。
こんな世界が、どこにでもある事を。
眉間に皺を寄せたまま、なるべく関わらないようにし、再び歩き出す。
ここから少し離れているあの教会に行けば…詳しい事が聞けるだろう。