ALONES
散々な勘違い
「―なんだ、お前らスラム街から来たのか。」
あっちゃーと大袈裟に額に手を乗せる店主、名をティベリオ・カンタレーニ。
彼はギョロリとした大きな目を黒いバンダナの下から覗かせ、「あそこは酷かっただろう。」と顎に生えた無精ひげをボリボリとかいた。
「…流石に吃驚したよ。でも、ここはまだ綺麗な方だね。」
グラスを片手にリンゴ酒をくいっと一飲みすれば、笑いながら酒を注ぎ足すティベリオ。
「お前、メチャクチャ酒に強いだろ。もう2本目だぜ。」
「別に好きで強いわけじゃないよ。」
まだほろ酔い程度の気分でそう告げれば、すげぇな、と笑い声を上げて彼は僕の隣へと視線を移す。
「その体質を彼女にも分けてやるべきだな。」
視線の先――リンゴ酒一杯で酔いつぶれ、カウンターで眠るキーラを見つめて、僕は笑った。
「そうだね。」
あの後すぐに打ち解けた僕たちは、ぎこちない敬語も取り払って、正直どうでもいい話をつらつらと続けていた。
とはいえ、どこから来たんだとか、名前はなんだとか…結婚しているのかとか、色々と聞かれたが、
詳しい事は告げず、オルフィリアから来た事、アルヴァスティンと言う名である事、結婚はしていない、という3点セットでサクッと話しただけ。
オルフィリアから来て、アルヴァスティンと言う名はいささかマズイかと感じたが、“オルフィリア出身のアルヴァスティン君”なんて、全国を探せばいくらでもいるに違いない。
だから何の心配もないと判断した訳で。