ALONES
「エルヴィス様…。」
部屋を出て向かった豪華な一室の前で、王族専属騎士が一人、胸に手を当て静かに頭を下げた。
恐ろしい程に映える紫色の短髪が揺れ、動じる事の無い紫瞳が静かに伏せられる。
流石は極彩人、イゼリオ公国の出身と言った所か。
凛とした佇まいで向き直るその男の名はヨア・リコルタ。
優秀な宮廷医師であり、王妃専属騎士でもある。
そして今自分が立ち入ろうとしている場所こそ―…実母、王妃の部屋。
だが、母には少々問題があった。
それは5年前、彼が孤島に送られた時…徐々に彼女の身と心に異変が起き始めた事。
「…様子は。」
「今は安定しておられますが、いつもとお変わりない状態です。」
瞳を伏せてヨアが告げるように、今尚、異変は彼女を蝕み続けていた。
「面会…なされますか。」
ヨアがドアノブに手をかけたまま、問いかける。
俺は小さく頷くと、開かれた扉の間から身を滑り込ませた。
「………」
“相変わらず”。
母は天蓋付きのベッドの上で上半身を起こしたまま、窓の外…ずっと遠くを見つめていた。
どれだけ歳を取ろうと変わらぬ、美しい佇まいで、彼女は俺を見る。
「あら!」
途端に表情は一段と明るくなり、大きく手を広げて“相変わらず”同じように、母は俺を呼んだ。
母は俺を、呼んだ。