ALONES
いつもは食って掛かる彼女がだんまりを決め込んでいるのもそのせいか。
どうせまたレイチェルと揉め事でも起こしたのだろう。
何度言ったら分かるんだこのバカが、と怒鳴りたい衝動をぐっと抑え、ランベールに向き直る。
「―それで、用件はなんだ。」
ヘラヘラと笑みを浮かべるこの男の態度がいつも気に食わないが、今や下手をすれば父よりも手強い相手だ。
かのジークハルトに負けず劣らずの…厄介者。
そんなランベールは笑みを絶やさないまま口を開く。
「ご存じでしょう、が。今朝国王陛下が国内視察も兼ね、ロレンツェ公国へと向われました。主眼はロレンツェ公国と我が国で生じている縺れの改善、及びに同盟の存続です。」
しかし次第に口元に浮かべた微笑が消え、鋭いばかりの眼光が各々に突き刺さるのを皆が感じた。
その視線はまるで「余計な事をするな。」と言わんばかりに堂々と釘を刺す。
「何が言いたい。」
思わず飛び出す苛立ち。
だがいくら睨めど、この男が怯むことは決して無い。
寧ろこちらが恐れを為す程、眼光炯々にランベールは告げる。
「単刀直入に申し上げますと、くだらない子どものどんちゃん騒ぎに巻き込むな、と言う事です。」
ピシリ、と張りつめた空気が裂けたかの如く…途端にアストリッドの表情が豹変し、手が動いた。
「き、さま…!」
彼女は素早く剣の柄を握り、引き抜こうとしたが…隣にいたヨアがそれを許さない。
彼にその手を剣ごと押さえつけられ、アストリッドは獣のように唸り、やり場のない怒りがカタカタと刀身を震わせた。
だが、それでも彼は動じず、勿論俺自身も動じない。
何と言われようが、言ったはずだ。
「想定内だ。」
と。