ALONES
* * *
「案外早く着きましたね。」
夜も深くなった頃。
ヒンヤリとした風が通る質素な部屋の暖炉前で、王国騎士団副団長のキール・ヴァン=ウォーロックはダークブラウンの髪を揺らし、能天気に笑って見せた。
「まあ、一度も休憩を取らなかったからな。…とはいえ、馬も騎士も…陛下も皆ヘトヘトで、ほぼ惨事だが。」
次はもう少しゆっくり移動しよう、とレイチェルは呟きながら暖炉に薪をくべる。
——グランフィリア城を出てから西へ進むこと半日。
最も近い分城である、ローエン城にて暫く滞在することになった。
本来ならばロレンツェに最も近い南東方面へ進みたい所なのだが、この遠征はオルフィリア全国の視察と言う役割も兼ねている。
その為各地域ごとの領主や国民達に挨拶をするのは勿論、生活水準に対する悩み、苦情相談まで、あくまで親切に行わなければならない。
「気の遠くなる任務だ…。」と項垂れれば、キールが「頑張って下さいよ聖女サマ。」と冷やかしてくる。
人の気も知らないでとボヤキ、近くの机に置いておいた水を一気に飲み干すと、不意にキールが口を挟んできた。
「レイチェルさんは結婚とかしないんスか?」
思わず、口から水を噴き出してしまったのは言うまでもなく。
「急になんだ!」
と声を張り上げればゲラゲラと笑ってキールは自分を馬鹿にしてくる。
「どうしてそんなに神経質になるの。レイチェルさんてば、ホント純情。」
「うるさい!」
くそう、顔が熱い。
ギリギリと歯を噛みしめたままキールを睨むが、彼には全く効いていないようだ。