ALONES
王のため息。
沈黙。
身分の差一つでこの有様だ。
どことなく虚しさを覚えるこの関係に、もう、慣れたつもりだったのに。
レイチェルはふと、父がよく口にしていた言葉を思い出した。
『越えられぬ壁と、超えてはならぬ一線がある。』
幼い頃の自分には理解できなかった言葉だ。
なのに、今では痛い程理解できる。
身分の差、騎士という存在。
気づけばこれが…自分の進んできた道だった。
「…よく、この城のこの場所で、ジークハルトと話していた。」
王は目を伏せる。
「この国の事や、外交の事…そしてレイチェル…お前の事もな。」
その瞳は…自分と父とを重ね合わせているようで、少しだけ苦痛を感じた。
父と自分は似ていない。
そう、言われているようで。
かく言う王も父の事を思い出したのだろうか。
心哀しい表情を浮かべてはいたものの、しかしながらどことなく…楽しげでもあった。
過去を懐かしみ、生前の父と語るかのように思い出を呼び起こす。
それはとても残酷な行為でもあり、同時にとても幸福な行為でもあった。
「だが、特に盛り上がった話は…そうだ、英雄オルベイン王の話だ。私もジークハルトもあの物語が好物でな。ちなみに…『英雄王オルベイン物語』を読んだことはあるか?」