ALONES
この物語の登場人物は皆実在していた人物に間違いは無く、生き延びていれば子孫ぐらいいるだろうと、安易な考えを巡らすレイチェルだったが、
その傍でキールがふいにクククと笑い声を上げる。
「…キール?」
思わず彼に視線を向けるが、キールはレイチェルと顔を合わせる事無く息を吐いた。
「そうきますか、と。」
両腕を頭の後ろで組み唸り声を上げる彼を王は眺め「やはりな。」と呟くと、それはもう満足げに笑みを浮かべる。
息を零し、キールは王に向き直ると目を閉じて項垂れた。
「ズルいですよ陛下、『英雄王オルベイン物語』が愛読書とか。」
「そもそもお前自身隠そうともしていなかっただろう。名前はそのまま、騎士の癖に剣は得意でなくて弓が得意だなど…。それのみか、その腕前はどう考えても天性のものだ。私より先にジークハルトが気づき、あのランベールでさえも知っていたぞ。お前が、
ウィルフレッド・ロードリア・ヴァン=ウォーロックの直系の子孫であると言う事を。」
…何ぃ!?
思わず振り返れば、ボリボリと頭をかきヘラヘラ笑うキールの姿があって。
更にあの団長も知っていたこの事実を、自分だけ知らなかったという事に対しても腹立たしさを感じずにはいられなかった。
それにしても、この男。
いつも大きな弓を背負っている理由に、こんな事実が秘められていたとは。
つくづく世界は狭いものだと思い知る。
キールは「まじっすか。」と苦笑を零し、自分が偉大な先祖の子孫だからと言って威張り始めるわけでもなく…ただ自分らしくそこにいるだけで。
人柄なのだろうか。
彼の姿を見ていると、そんじゃそこらの貴族や金持ちに「恥を知れ!」と言いたくなるほどだ。
彼は王に自らの弓を見せたり、家にあんなものがあって、こんなものが置いてあって等々、王が問えばなんでも話した。
その風景は主従関係などあって無いような、和やかな過ぎる光景で。
越えられぬ壁、超えてはならぬ一線―…。
レイチェルはまた、父の言葉を思い出す。