ALONES
騎士の苦悩
夜の帳が下りた頃。
息を吐いて、ヨア・リコルタは自室の扉に手をかけた。
重々しい音を立て開く扉と共鳴するように…着慣れたはずの鎧が、歪な音を上げる。
そして当の本人も音を上げたいほどに、疲れきっていた。
眉間を押さえて深呼吸。
――厄介事を持ち込むなら早く言え。
鎧を外しながら一人で苛立ち、しかしその苛立ちは中々治まってくれそうにもない。
ただでさえピリピリしているこの時に、内乱を起こすようにやってきたアイツは、殿下とアストリッドを嫌と言う程挑発してくれた。
幸いな事に何も起こらなかったが、お陰でアストリッドの鬱憤晴らしに付き合わされて散々な目に遭ったのだ。
「あの女…手加減と言うものを知らないのか。」
体中の至る所に出来上がった痛々しい痣を撫でながら、蝋に火を灯し…ヨアは質の良いソファーに腰を掛ける。
――が。
息を吐く暇も無く、対に置かれた同様のソファーの上におかしな人影を見つけ、息を飲んだ。
寝そべった恰好で胸部が上下運動を繰り返している様子から、生きた人間である事を確認し、次いで長身ゆえ男だと気付く。
誰だコイツ。
一瞬自分が部屋を間違えたのかと焦ったが、明らかに置かれた家具は見慣れた物ばかりだし、愛用のティーカップだって朝紅茶を飲み終えたままの状態だ。
そもそも数年もここで暮らしているのに間違えるはずがない、という考えを数秒で終え、ヨアは薄明かりの中…じっと目を凝らした。
ソファーの手すりを枕にして、寝息を立てるこの男。
「………。」
彼が誰なのかを認識した時、ヨアは一層不機嫌そうに顔を歪めた。