ALONES
…戦争。
心が少し疼いた事に気付き、ヨアは動揺をひた隠した。
戦争と言う言葉はあまり聞きたくない。
語り継がれた過去の悲劇が、チクリと記憶を突き刺す。
しかしヨアの胸中など関係無しにランベールは続けた。
「とはいえ“いざこざ”程度で戦争を起こすのは厳しいだろうな。」
眉間に皺を寄せる彼の顔に笑顔は無く…、代わりに重々しい空気が流れる。
「何より王がまだ健在だという事が大きな盾になる。
物騒な話、仮に王を暗殺しようと目論んでいたとしても今は遠征中だ。グランフィリア城や王宮には俺がいるし、分城やその道中には護衛のレイチェルがいる。
ロレンツェに入ってしまえばロレンツェ公王の名の元に絶対的な安全が保障され、刺客を差し向けた所で俺にバレるか、レイチェルに殺されるかのどちらかだろう。
仮に良くある国同様、公然と王を殺し自らが国王に即位した所で、現在の国王に対する民衆の圧倒的な支持がある限り、平和的な統治は望めない。」
「―…はず、なんだが。」
聞いていれば完璧の様に思える話に、ランベール自身が口を濁らせた。
そして一層不安そうな表情を浮かべ、言うのだ。
「だからこそ、あの人の言っていた“想定内”の意味が分からない。」
と。
「…俺は、俺自身を買いかぶりすぎてるんじゃねぇかって…怖くて仕方ねぇんだよ。」
あらゆる恐怖を押し殺すかのように、ランベールの口調が乱れる。
悲鳴を上げ、軋む心の音が今にも聞こえそうな程に。