ALONES
それは突然の事だった。
「もう朝よ!起きなさーい!」
響く女性の声と、カンカンカンと何かを叩く音に、僕は飛び起きる。
「なに間抜けた顔してるのよ。死んでるどころか、起きてすらいなかったわね。」
手にフライパンとお玉を持ち、そう微笑む女性。
可愛らしくも素朴なワンピースを身に纏った彼女を僕は知っていた。
「キ、キーラ…さん?」
頭を上げ痛む体を起こせば、彼女はふわりと綺麗な髪を靡かせて、唇を尖らせる。
「“キーラさん”だなんて…よそよそしいわね。キーラで良いわよ、アル。」
…アル。
その呼び方に少しドキリとしたけれど、彼女はそんな僕に構うことなく、
「あなた、そのまま机に突っ伏して寝てたのね。すごい寝癖だし、頬に木目が入ってるわよ。」
寝ぼけたままの僕を見て、笑った。
それから彼女は、僕を手を引き強引に立たせ、「顔を洗ってらっしゃい。」と、雨水の入った甕と一緒に浴室へ僕を押し込み、ピシャンと扉を閉める。
「……え?」
僕は甕を抱きかかえたまま、呆気にとられ、その場に立ち尽くすしかなかった。