ALONES
—―私の、血?
「え、」
僕が驚いた顔をしているのに気が付いたのだろう。
キーラはクスッと笑い、薬の蓋を閉める。
「人魚の血は万能薬なのよ。傷薬にもなるし、咳止めにもなる。熱を下げる事もできる。あと、流行り病や伝染病とかにも良く効くわ。」
人魚は無敵なの。と彼女は笑った、が。
「――でも。」
ふいに僕を見て儚げな顔をする。
「これのせいで私死ねないのよね、人魚って、おかしな存在ね。」
まるで、昨日のキーラに戻ってしまったみたいだ。
昼間の底なしの明るさが、陰に隠れてしまう。
嗚呼、それは嫌だ。
彼女の瞳の青空が雲に隠れる前に、僕は咄嗟に口を開いた。
「君はとても綺麗だ。だから…勿体ないよ。死ぬなんて。それに、君が死んだら僕は…」
途中できゅっと、唇を噛む。
その続きが言えなかった。
5年間僕を縛り付けたモノの名を、そう易々と口に出来るほど、僕は強くなかった。