ALONES

—―私の、血?


「え、」


僕が驚いた顔をしているのに気が付いたのだろう。

キーラはクスッと笑い、薬の蓋を閉める。


「人魚の血は万能薬なのよ。傷薬にもなるし、咳止めにもなる。熱を下げる事もできる。あと、流行り病や伝染病とかにも良く効くわ。」


人魚は無敵なの。と彼女は笑った、が。



「――でも。」



ふいに僕を見て儚げな顔をする。



「これのせいで私死ねないのよね、人魚って、おかしな存在ね。」



まるで、昨日のキーラに戻ってしまったみたいだ。

昼間の底なしの明るさが、陰に隠れてしまう。


嗚呼、それは嫌だ。


彼女の瞳の青空が雲に隠れる前に、僕は咄嗟に口を開いた。



「君はとても綺麗だ。だから…勿体ないよ。死ぬなんて。それに、君が死んだら僕は…」



途中できゅっと、唇を噛む。

その続きが言えなかった。

5年間僕を縛り付けたモノの名を、そう易々と口に出来るほど、僕は強くなかった。

< 24 / 185 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop