ALONES
「――イゼリオ公国の医師団が開発した、新薬だそうです。なんでも殿下と同じ病の進行を遅らせる作用があるとか…。」
―――イゼリオ公国。
イゼリオ公国は、オルフィリア王国の北西にある亜寒帯大陸の小さな国で、世界で唯一の医療先進国だ。
また、イゼリオ公国には奇抜な髪色をした人が多く、極彩国、極彩人と呼ばれることもしばしば。
自分自身、城で暮らしている時に何度か見かけたことがあるが、それはもう度肝を抜くような髪色で、びっくりしたのを覚えている。
…新薬、か。
とは思いながらも、差し出されたら、受け取らない訳にもいかず。
僕がありがとうと薬を受け取ると、レイチェルは神妙な面持ちで僕を見た。
「ところで殿下…お体の調子は、いかがですか?」
心配そうに、彼女は目を伏せる。
それもそうか。
彼女は、僕が孤島に来た理由を知っている人物の一人。
あの日から5年も経っているわけだし、察しのいい彼女なら病の進行具合くらいは分かっているだろう。
けれど、僕はいつもと同じ返事をする。
「ああ、大丈夫だよ。最近調子もいいし。」
きっとこれをキーラが聞いていたら「アルは馬鹿よ。」と怒られるだろうな、と心の中で思う。