ALONES
——生で食べるのよ、当たり前でしょう?
渋々調理を代わり、暖炉で魚を焼く。
当たり前でしょう?と言われたって、生で魚を食べる習慣がないのだから、そう簡単に受け入れられるはずもなく。
魚はすぐに腐ってしまうから干しておくのが基本だ。
生、さらにあんなえげつない食べ方を見せられては、折角の貴重な魚も、まるで美味しそうに思えない。
最悪だ、悲劇だ。
新鮮な魚が悪魔に見える。
「いつまで焼いてるのよ、煙が鼻につくわ。」
ぶぇっと嫌味を零し、血だらけの口を拭くキーラ。
見ない、見えない、気にしない。
そんな事を頭で思いながら、焼く事数分。
質素ではあるが、野菜のスープも同時進行で作り、何とか食べられる夕飯が出来上がった。
「あら、上手ね!」
キラキラと目を輝かせるキーラは、料理を机に置くなり、焼き魚に手を伸ばす。
その人差し指がアツアツの焼き魚を貫く前に――
「フォークとナイフ!」
彼女の腕を掴み、それらを強引に持たせた。
すると、手でいいじゃない手で!と彼女はプイプイ怒り始めたが、これが僕の中でのマナーですと伝えれば、渋々フォークとナイフを持つ。
「手で食べた方が早いわよ。」
「気持ちは分かるけど、ダメです。」
この孤島で独りで暮らすようになって、国で習った作法を気にすることは少なくなったが、
一応基礎的なテーブルマナーを学び、常に習慣として行ってきた過去がある。
そんな僕にとってやはり手で食すと言うのは論外で。