ALONES
早く。
早く早く、早く。
息が切れて、体力が持たなくなって、咳き込んでも、足は止まらない。
やがて岩礁が近くなり、僕は一歩一歩慎重に“あれ”に向かって足を進める、が。
道のりは険しく、切り立った岩肌はブーツの底を抉り、よろけて近くの岩に手を付けば、手が切れ血が滲んだ。
「―——。」
でも、ふ、と顔を上げれば“あれ”——人魚はもう目の前にいて。
透き通った肌に、珊瑚のように白く長い髪。
海から流れ着き、岩礁に打ち上げられたのだろうか。
ぐったりと岩にもたれかかるように預けられた躰には、あちこちに切り傷があり、瞳は深く閉ざされている。
それと驚いた事に、岸壁の上で見た時の魚のような下半身は、鱗がはがれ、色も変わり、二つに分裂していた。
しなやかに細いそれは、人間の足、そのもの。
どうやら水にかかっていない部分は、時間が経つと人間の足になるらしい。
だが、なるほど、と、見とれている間に気になった事がひとつ。
よくよく思えば、胸にはふくらみがあるし、髪は長いし、男ならあるものが付いていない。
女、しかも裸。