ALONES
彼女は「はぁ。」と大きなため息を吐き、踵を返す。
「おい、祈らないのか?」
そんな彼女の後を追いランベールは声を投げかけるが、レイチェルは「お前のせいで礼拝堂に入れなくなった。」と言わんばかりにジトッと睨みを返した。
「もう諦めました。」
でも、彼には全く効果がない。いつもそうだ。ヘラヘラと笑って誤魔化す。
しかしそれでいても、ランベールは王族専属騎士団の団長兼、国王の第一専属騎士であり、尚且つ自分達の元で動く王国騎士団の団長という、とんでもなく凄腕の騎士。
今や世界中で最強の騎士ではないかとさえ言われている。
それに、かつて我が父が担っていた全ての職務を引き継ぐ事は、当時国王の第二専属騎士であった彼にしか出来なかっただろう。
だから結果的に、総合的には、レイチェルは彼を尊敬していた。
でも、人間的にはかなり微妙な所で。
けれどもそんな彼は、城に住む大勢の女たちにすこぶる好かれている。
正直、主に男性騎士から勝手に“真紅の聖女”と二つ名を授けられた自分もかなりの人気を―ランベールから聞いた所によれば―博しているようだが、
彼もまた主に女性から勝手に“黒薔薇の君”と二つ名を授けられ、黄色い声を投げかけられているのだ。
確かに、顔も良ければスタイルも良い、とは思う。
しかし、この男を好きにはなれない。
黒薔薇の君?冗談も甚だしい。
諸君、君たちは男を見る目がないのか!と延々と話し続けられる自信が彼女にはあった。
それ程までに、レイチェルはこの男の事を好きにはなれなかった。