一粒のkiss
以前なら、
どこにいても彼の姿を探したのに。
どこにいても彼の姿を見つけられたのに。
今は探したくない。
今は見つけたくない。
その場から逃げたくて、
皆の輪から離れ、
裏につながる冷たい廊下に出た。
酔いがまわり始めた頭と体は、
イラつく心で、
余計にフラついた。
「…情けない、なぁ…」
冷たい廊下の壁に寄りかかると、
なんだか、
体も心も冷えるようで、
自然と涙が流れた。
「無理し過ぎですよ。茜先輩」
ーーえ?
驚いて顔をあげると、
「あ…れ?爽くん?」
名前の通り、
爽やかな雰囲気の男の子、
サークルの後輩、爽くんが私の腕を支えていて、驚いた。