秘密
「どうして死んだの?」

「この図書館の前の車道で車に跳ねられて。……君を見ていて、足を止めたとき、僕は死んだ」

私は呆然とそれを聞いていた。

「……私のせい?」

「違う。見とれていた僕のせい」

「ごめんなさい」

「いや、聞いてくれてありがとう。――もう遅い。気をつけてお帰り」

そう言って、彼は私の額にキスをした。
ぬくもりを感じない、虚しいキス。
私は驚かなかった。頷いて、図書館を出た。
彼は成仏できただろうか。

それ以来、同僚は幽霊話をしなくなった。

あれは私と彼の秘密。
彼氏にも秘密。
不思議な、たぶん二度と起こることのない体験だから。

―おわり―
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