『無明の果て』
私達が同じ場所へ導かれ続ける理由が何かあるとしたら、それはそういう運命だったからだと、そんな言葉でひとくくりにしてはいけない、別の意味がきっとあるのだろうと、私はそう思っている。



空港で、あの人混みの中でエールをくれた美しい人は、確かに私を愛し、真実に打ち砕かれ、そして私の前から姿を消した。



でも約束された将来を選ばず、自分のために前進する事を、そしてその道を、ちゃんと探し当てた。



私のためではなく、たったひとり、自分自身のために。



私は私を愛してくれた涼に、話さなくてはならない言葉がある事を知っていながら、一行と生きて行くと云う理由付けで逃げていたのかもしれないと、だからこうして行く先々で、触れ合ってしまうのだろうと、思わずにはいられないのだ。



気付いていないふりをして、痛い傷口に触れないまま、初めから何もなかった事のように、もう過去の事と、無理矢理置き去りにしたあの日の事が、遠くからずっと私を見ている気がする。


本当のずるい私を、見逃してくれたあなたに、謝らなければいけない事があると、ずっと思っていた。


どこからか聞こえて来る声は、私を責める。


だらしのない女だと。


電話の声は、すぐ正幸さんに代わり、



「麗子さん、涼はね、これからしばらく大事な試合が続くから、結婚式には出られないって、お祝いに来てくれたんですよ。


丁度いま、涼の事は応援はしてるけど、心配もしてるって話してたら、麗子さんから電話だから、涼に決着は自分でつけろって、けつ叩いてやったとこです。」



この二日間は、私こそが決着をつけなければならない人生の、幾つ目かの句点になるんだろうか。


そのために、きっとここに呼ばれたんだろう。



やはり、会うべきなんだと、電話の声にたずねてみる。



「もしもし、涼君。
久しぶりね。
元気だった?

新聞で優勝した記事読んだわ。
おめでとう。
頑張ってるのね。

まさか、そこにいるなんて思わなかったから驚いたわ。
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