『無明の果て』
そこに何か良いことあるのかと期待してしまうけれど、そういうものが無くたって、やっぱり正直に生きて行くと言う事なんだと。



本当の恋。



本当の仕事。



本当の人生。




今日も、きっと明日も探し続けて行くものなのかもしれないと、岩沢は言った。




「一行、ここ。」


大きな荷物を抱えて近づいて来た一行は、少し伸びた髪を揺らして右手をあげて微笑んだ。



「やっと来たよ。

あれ?
麗ちゃん、その服懐かしいな。」



「覚えてる?」



「覚えてるよ。

キャリアウーマンの上司に初めて会った時、その人が着てた服。


あの時しか見なかった気がするけど、着てた?」



「あの時だけよ。


あの日は特別だったから、次に着る時も特別な日にしようって決めてたのよ。」



あの日から二年が過ぎ、けっして早いとは言い難い私のカウントダウンは、しっかりと動き続け、そしてまた一からスタートする日になって行くのだ。


「ねぇ一行、今日中に神父さまに紹介しなくちゃいけないんだけど、ここから教会へ行ってもいいわよね。


岩沢輝さんって言うの。」



「えっ、岩沢さんって語学スクールの人じゃなかったっけ?」



「うん。

それがね…」



私は、アメリカへ旅立つ日に出会った岩沢との今までを、教会へ向かう車の中で全て伝えた。




「専務と同期か…

そんな偶然ってあるんだ…

専務に報告に行った時、色々聞かれたのはそういう事情からだったのか…


専務が麗ちゃんの所に電話してたなんて、知らなかったよ。」



一行はひとり窓の外を眺めながら、大きく深呼吸をした。


私は一行の大きな手をそっと握った。





教会の前には、すっかりそこに溶け込んだ姿の神父様が出迎え



「お待ちしていましたよ。」


と、緊張している一行に頭を下げた。



「はじめまして、鈴木一行です。

妻がお世話になりましたそうで、ありがとうございます。


明日もよろしくお願いします。」
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