『無明の果て』
「いえ、大丈夫です。

ただ緊張しているだけです。


ここへ来る車の中で聞かされた事実に、どう対応したらいいのか、正直よく分からないでいます。


でも神父様、いえ岩沢さんが、会社の先輩だったと云うだけで、私はここに来る意味があったんだと、お会いして確信しました。



先輩でもある神父様の岩沢さんが、私達のはじまりを導いて下さる事も、会社を辞めた麗子と、その会社で出会った私との不思議な繋がりが、ただの偶然ではない事も、ここに来てようやく分かったような気がします。



麗子が運んで来る奇跡みたいな事柄に、私はずいぶん驚かされて、それは岩沢さんとの事もそうでした。



本当は、岩沢さんの事を聞かされる度、胸騒ぎのような、そんな感情を持っていました。

すみません。

失礼な、ばかげた気持ちでした。」



「そうでしたか。

そうですね。

離れていれば、当然の気持ちです。

まして、お若いし、結婚されたばかりでは、心配されるのが当たり前ですよ。
すみませんでした。


鈴木さんは正直な方ですね。



仕事をしている時には迷いなどあまり感じなかった私も、ここではまだまだもがいている途中なんですよ。



大きな間口を広げて、私がすべき事が何なのか探している途中です。



この歳で、自分自身の矛盾と向き合っています。



私の亡くなった妻は、この教会で、ここに立ち寄る方に言っていたそうです。



”明日は追い掛けるもの“


だと。



待っていても、明日が来ない人もいる。



いつ命果てるのか、それは誰が決めるものなんでしょうね。



生まれた時から決まっているものなんでしょうか。




明日に希望を持って、明日を追い掛ける事が出来る幸福に感謝していると、そんな事を言っていたと聞きました。



鈴木さんご夫婦は、正に明日を追い掛けておられる。

眩しいようです。」



優しい瞳の透き通るずっと先に、私は何を見、何を感じ、何を語ればいいんだろう。
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