『無明の果て』
式の後 たまたま通りがかったなんて泣かせる事を言う両親や友人達と、私達の結婚式、正幸さん夫婦のお祝い、初めてのアメリカ訪問となった両親達への労い、将来私と共に汗を流す事になるだろう後輩達との約束、そしてもうひとり、未だ見ぬ命の歓迎のために、小さなパーティを開く事になった。



パーティと言っても、岩沢と行った、あの日本食レストランで、賑やかに、メンバーそれぞれの披露宴を開こうと、嬉しい事がこんなにあるんだからと、一行がみんなを誘ったのだ。




岩沢神父に



「是非、ご一緒に」


と、声をかけてみたけれど



「私は小池君と約束がありますから。」



と、挙式を無事終えた 安堵を含んだ微笑みで、ここで私達を見送るからと、優しくそう言った。



「私が初めて送り出すご夫婦です。

幸せになって頂かないとちょっと責任を感じます。

あと何人の方のお手伝いが出来るのか分かりませんが、今日の式は私にとっての決断の時でもありました。


麗子さん、私にこの日を授けてくれてありがとう。



私がこれからの限りある人生を歩んで行く勇気と見極めを、あなたは私に与えてくれました。



私にも明日を追い掛ける力が、わずかばかり残っていた事に気付きました。



神父になる事も、麗子さんの挙式に立ち会う事も、不思議な巡り会わせが働いた私の宿命とでも云うべきものなんでしょうか。」



誰にでもそんな風に、
真っ直ぐ、素直に


”ありがとう“


と、自分をさらけ出す決心が、いつか私にも出来るようになるものなんだろうか。




「お聞きしても良いでしょうか。


麗子さん、私の妻は私と暮らして幸せだったのでしょうか。

妻に会った事もないあなたにお聞きするのはおかしな事ですが。」



あの手紙でしか知らない同じ名の女性が、心の底で言葉に出来ない見えない闇と闘っていたとしても、私は思う。



「えぇ、とても。


幸せだったと思います。」
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