『無明の果て』
四十分のいくつかを、長いと感じるのか そうでないのか、私が成し遂げようとしているものの価値は これから決まる。



みんなを見送り一行とふたり、私のアパートへと歩く。



「一行、はじめて二人で歩いた日の事覚えてる?」



「覚えてるよ。

麗ちゃん泣いたでしょ。」



「一行、カッコイイって言って。」



「何?」


「あの時言ったみたいに、カッコイイって言って。」



「麗ちゃんは、いつもカッコイイよ。

麗ちゃん、お誕生日おめでとう」



一行は上着のポケットから細長い箱を取り出し 私に差し出した。


「えっ、指輪は交換したよ。」



「これは誕生日プレゼント。


悔しかったから。」



そう言って笑った一行がくれたものは、薄いボルドー色の文字盤の腕時計だった。



「あの時計、涼からもらった時計、悔しかったから。」



今日からは、これが時を刻むんだ。


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