『無明の果て』
園、教えてあげるよ。


目に見えているものだけが悲しみの全てじゃないよ。



ずっとひび割れたまま、陽の当たる事のない心だって、いつまでも忘れずに持っているんだから。



園だって、ちゃんとわかっているくせに。


だけど



「園の歌だよ。
園の思う通りに歌えばいいんだよ。

大丈夫だよ。

園の歌は、みんなちゃんと聞こえて来てるよ。

悲しいだけの『楽園』かぁ。
俺はその方が好きだけど。」




嫌な事があっても、楽しい事があっても、自分の責任で決めて行くんだと、今を見つめる自分に言い聞かせて、きっと大丈夫だと 何度も言い聞かせて、僕等は夢を追い掛けているんだから。




「涼に言ってもらうと自信ついちゃうなぁ。そうだよね。
私の歌を歌えばいいのよね。

涼みたいに勝ち負けがはっきり分からないから、迷っちゃうんだ。」




「勝ち負けがはっきりしてるのも、けっこうつらいもんだよ。」


「あ、ごめん。
そんなつもりじゃないんだ。

認めてもらえる時が来るって事は、涼にとっては勝ち続けるって事だもんね。

涼の方が何倍も厳しい場所にいるのにね。
ごめん。

ねぇ涼、お願いがあるんだけど、聞いてくれる?」



「何?
俺に出来る事ならいいよ。」



少し 間が空いて




「一行に…
彼に言っておいてほしいの。

来週のオーディションで、作曲者の事も聞かれるのよ。
名前出すからって、伝えてほしいのよ。」




「そうか。
分かったよ。
言っておくよ。

電話はしないの?
一行にはもう会わないつもりなの。」




「涼は?」




「俺もしばらく会ってないけど、忙しいみたいだよ。

なんか一行だけ大人になって行く気がする。」



「違うよ。
麗子さんの事。

私が一行と会うって、そういう事じゃないの?」
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