Black Beast.
「 柚菜 」
「 ん? 」
「 着いたけど 」
「 え? 」
自分より前を行く影を
追いかけるようにして
黙々と歩いていたら、
いつの間にか家に着いていた。
足を止めた玲央くんの制服の裾を
無意識にきゅっと握った。
「 ・・・・はぁ 」
腰には手が回されたままで、
向かい合っていた私を少しだけ
抱き寄せた玲央くんが小さく
溜息を零して、それが少し寂しくて
俯いたままで居ると、
ふわっ、と額に何かが触れた。
「 部屋の前まで行く 」
温かくて、柔らかいそれが
なにか、なんて考えなくても
すぐに分かった。
照れる時間もなく再度歩き出した彼は
私の部屋へと足を進めていく。
私たちの間に会話なんてものはなくて、
ただお互いが黙って歩くだけだった。
それもまたなんだか寂しいけど、
仲良く話しながら歩く私たちなんて
想像ができないのもまた事実で、
日に日に我侭になっていってる。
そんな気がした。