Black Beast.
驚いて声が出ないのかな、と
拓未くんが何も言わないことに
疑問を感じなかったのは
多分、私だけじゃなくて。
だから、みんなしばらく
言葉を失っていたんだと思う。
「 拓未?おい!! 」
ドアに寄りかかって
床に座り込んだ彼の体の
あちこちで血が滲んでいて、
白いパーカーが赤に染まっていた。
頬を、喉を伝う血はパーカーに沁みて、
ドアや床にも血がついていた。
痛そうに顔を歪めた彼は
意識があるらしく、
みんなが声をかけるたび、
薄く目を開いて、瞬きをすることなく
そのままゆっくり目を閉じて、
その繰り返しだった。
「 俺・・・救急車呼ぶ! 」
「 店員に言ってくるわ! 」
「 救急箱もらってこい! 」
拓未くんの体をゆっくりズラし、
タオルを頭の下に敷いて寝かせたあと、
みんなが部屋から飛び出して行った。
鞄からハンカチを取り出したものの、
傷が多すぎてどうしようもなくて、
止血のしようがなかった。
辛そうに呻る彼の手に触れた自分の手が
小刻みに震えていて、私の頬には
涙が伝っていた。