Black Beast.



「 柚菜、もういい 」


「 ・・・・ッ・・う・・・ 」


「 拓未なら大丈夫だ。
  これくらいでくたばらねぇから 」



後ろから私を抱き寄せた玲央くんが
片手で私の視界を覆った。



何も話せないほど、痛いのに
ここまで来てくれた。
足を引きずってまで来てくれた。



それなのに今はピクリとも動かない。



「 た、拓未く・・・ッ 」



苦しそうな息遣いが耳を掠めた後、
拓未くんは担架で外へと運ばれて行った。



玲央くんの手からは
力が抜けていて、指と指の隙間から
運ばれて行くのが見えた。



ズルリ、と下ろされた手が
私を力なく抱きしめて、
私の視界には血で赤く染まった
床だけが映っていた。



私を抱きしめる身体が
小刻みに震えている気がして、
そっと手に触れて、彼の身体が
”怒りで”震えているんだと思った。



奥歯を噛み締めて、湧き上がる
怒りを必死に抑えている彼の身体は
しばらく震えが止まらなかった。



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