Black Beast.
携帯を制服のポケットにしまって、
鞄を片手に鏡の前に立つ。
少し乱れていた髪型を整えて、
彼の待つ玄関へ戻った。
「 柚菜 」
「 ・・・・? 」
玄関の壁に背中をつけていた彼が
私に手を出してきて、
首を傾げながらその手に視線を落とし、
彼に近寄ると、その手は私の鞄へ伸びて
半ば無理矢理奪い取られた。
「 え? 」
靴を履けってこと・・・なのかな。
何をするにもこの人は言葉が足りなくて、
”鞄、持ってやるから早く靴を履け”なのか、
”荷物、俺が持ってやるよ”なのか、
ゲームのように選択肢でも出てくれればいいのに。
そんなくだらないことを考えながら
靴を履いて、顔を上げた。
1人暮らしの部屋の玄関に2人立つと
少し窮屈に感じて、鞄をどうしようかと
気にしながらもドアノブに手をかけた。
「 ・・・柚菜 」
「 ん?・・・・ッ! 」
名前を呼ばれて再度顔を上げると
ガシッと大きな手に顎を掴まれ、
驚く間もなく唇を塞がれた。