Black Beast.
・・・逃げる方法すら考えられなくて
あっさり連れて来られて、
本当に情けない。
もうすぐ春だと言っても
寒いものは寒くて、それなのに
屋上なんて風当たりのいい場所に
連れてきて何のつもりなんだろう。
・・・寒くて仕方ない。
「 おはよ~玲央! 」
「 朝からうるせぇ 」
聞き覚えのあるその声に足元に
落としていた視線を上げて、
うるさいと言われた彼を見た。
「 う~・・・寒ぃっ! 」
冷たい風に揺れる栗色の髪の毛。
少し長い髪を片方だけ耳にかけていて
昨日とは雰囲気も印象も違う気がした。
「 さ、桜井くん・・・? 」
「 んー? 」
”玲央”と呼ばれた彼の後ろから
顔を出して大勇くんに声をかけると
大勇くんの方からこっちに来てくれた。
「 昨日はごめんね? 」
そう言って髪を撫でる彼の手には
包帯が巻かれていて、一瞬頭の中を
昨日の彼が過ぎってビクリと肩が上がった。