Black Beast.



「 ううん・・・? 」


「 ・・・・あの、さ 」


「 うん? 」



なんて言っていいのか分からなくて
小さく首を振ったら、
拓未くんが顔を引きつらせながら
気まずそうに口を開いた。



「 俺が来させといてなんだけど、
 そろそろ・・・戻った方がいいかも 」


「 ・・・・へ? 」



そう言われてパッと振り返ると
病室のドアの目の前で紫緒さんが
倒れていて、その隣で拓未くんが
いつも食べていた棒つきキャンディーを
噛み砕いている玲央くんが目に入った。



ガリッ、ガリッ、と
小さくて可愛い飴が口の中で
容赦なく噛み砕かれる音が
これでもかってくらいに聞こえてきて、
思わず苦笑してしまった。



「 拓未くん 」


「 ん? 」


「 みんな、もう帰ったのかな・・・? 」



立ち上がった私を見上げながら
拓未くんは笑って病室の奥を指差した。



指先を追うと、奥のソファから
はみ出している足を見つけて
拓未くんと顔を見合わせて笑ったあと、
不機嫌そうな玲央くんの方に戻った。



< 226 / 336 >

この作品をシェア

pagetop