Black Beast.
「 ううん・・・? 」
「 ・・・・あの、さ 」
「 うん? 」
なんて言っていいのか分からなくて
小さく首を振ったら、
拓未くんが顔を引きつらせながら
気まずそうに口を開いた。
「 俺が来させといてなんだけど、
そろそろ・・・戻った方がいいかも 」
「 ・・・・へ? 」
そう言われてパッと振り返ると
病室のドアの目の前で紫緒さんが
倒れていて、その隣で拓未くんが
いつも食べていた棒つきキャンディーを
噛み砕いている玲央くんが目に入った。
ガリッ、ガリッ、と
小さくて可愛い飴が口の中で
容赦なく噛み砕かれる音が
これでもかってくらいに聞こえてきて、
思わず苦笑してしまった。
「 拓未くん 」
「 ん? 」
「 みんな、もう帰ったのかな・・・? 」
立ち上がった私を見上げながら
拓未くんは笑って病室の奥を指差した。
指先を追うと、奥のソファから
はみ出している足を見つけて
拓未くんと顔を見合わせて笑ったあと、
不機嫌そうな玲央くんの方に戻った。