Black Beast.
黒色のシンプルなデザインの水着は
ここに来る前、私が選んだ。
”これでいいかな?”と
それを見せながら首を傾げた私に
”お前が選んだならそれでいい”と
なんとなく少し恥ずかしい返事をした彼は
今現在、物凄く不機嫌な表情で
私の浮き輪に手を添えて沖の方へ進んでいた。
「 玲央くん・・・私、 」
「 泳げねーんだろ? 」
「 ・・・・知ってるなら・・・ 」
”遠いところまで連れて行かないで”と
言いかけた私を横目に、ザパンッと
海に顔をつけて泳ぎだした彼に
多分私の声は聞こえていなくて、
容赦なく沖の方へ連れて来られた。
八つ当たりとしか思えない行動に
怒りたいのは山々だけど、
それどころじゃない。
「 待って!待って!待って!!! 」
本当にあっという間に遠くまで来てしまって
悲鳴に近い声を上げると、やっと彼は
泳ぐのをやめてくれた。
長く息を吐き出しながら
濡れた髪をかき上げた彼は
チロリ、と私を睨んだ。
「 なに・・・? 」
泣いているわけでもないのに、
泳げない私がこんな沖にいるという
恐怖から自然と声は小さく震えていた。