Black Beast.



夕飯まで軽く2時間はある。
ゆっくり温泉を楽しみながら
気持ちを落ち着かせよう、と
”女湯”と書かれた暖簾を潜った。



部屋にもよるけど、個室にも
露天風呂がついている部屋があって、
それなりに有名な旅館だった。



お客さんも多いようだけど
ほとんどの人が海や観光地へ
行っているのか温泉には人が全くいなかった。



「 ・・・・・はぁ 」



広々としたお風呂の中で体を洗ったあと、
濡れた髪を一まとめにして、
温泉に浸かる。



外には露天風呂もあるようだった。
湯気で曇った窓の外には海が見えて、
見慣れていたのに随分と懐かしい風景に
溜息が零れた。



・・・帰ってくるつもりなんて、なかった。



来なきゃよかったとは思わないけど、
ここに来るとどうしても気分が下がる。
1人になりたいと思ってしまう。



無意識に零れる溜息を飲み込み、
私はそっと目を瞑った。













──────────なんで、来たんだっけ?




そんなことを考えながら。




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