Black Beast.
「 観光客?浴衣可愛いねぇ 」
「 どこから来たの~? 」
暗くてよく顔が見えないけど、
・・・・忘れるわけがない。
潮風の匂いに混じって
ふわっと香る甘い香水の匂い。
珍しいものを見るように
男の人たちが私を見ていて、
数人の片手には煙草。
こんなことがあるわけがない。
そう思いながらも、
全身から力が抜けてしまった私は
ガクン、とその場に座り込んでしまった。
忘れるわけがない。
この声、話し方、匂いまで。
体の震えを押さえるように
腕を抱いて、助けを呼ぼうと
口を開いたけど、喉の奥で
息が詰まって、声が出なかった。
「 どうしたの~? 」
「 え、そんなに俺たち怖い? 」
嘘だ。
こんなの、嘘だ。
大丈夫、と言いながら
男の人の手が肩に触れた。
「 や・・・ッ!!! 」
バシッとその手を払いのけ、
顔を上げた瞬間、目の前に居た
男の人の中の1人が
私を指差した。