Black Beast.



「 余所見すんな 」



腰に回した手で私を抱き寄せて、
少しムッとした彼が横目で
私をチロリと睨んだ。



無意識に口から零れそうになる
溜息を飲み込んで、少しの我慢だと
自分に言い聞かせた。



「 俺は裏口からだっけ・・・ 」


「 あぁ 」


「 柚菜ちゃん、また後で 」



ニコッと笑って軽く私の肩を
叩いた彼は細い道に入っていった。



気付いたら表通りへ出ていた私たちは
真っ直ぐ行った先にある4階建ての
ビルに向かって足を進める。



「 その髪、自分でしたのか 」


「 ?・・・いえ、桜井くんが・・・ 」


「 ふーん・・・ 」



あそこに着いてしまったら
すずくんの言っていた作戦が
始まるんだろうか。



・・・この時点でもう始まってる?



頭を過ぎるのはあの時の
大勇くんの表情だった。
ビルに1歩近づくほど足取りが
重くなっていく感覚に
引き返したい衝動に駆られる。



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