オレ様専務を24時間 護衛する


私の方へ1、2歩歩き出した彼の腕を掴んで

女性が何やら小さなものを差し出した。

それが何なのか、遠過ぎて私には見えない。

けれど、それを見た京夜様が凍りついたかのように固まった。

それも、物凄い形相で。


2人の会話を窺おうと、扉をゆっくりと開けると

何故か、女性とバチッと視線がぶつかった。

京夜様は彼女の手元に視線を落としている。


じっと見据える彼女の視線が少し怖くて、

それ以上、足が1歩も進まない。


かと言って、京夜様を1人にして踵を返す事も出来ず、

ただただ息を呑んでいた。


すると、僅かに口角が上がったように見えた彼女が

フッと表情を和らげて、何やら呟き始めた。


それが聞こえた京夜様が

ゆっくりと顔を持ち上げ、私の方へ視線を向けて来た。


――――――何故、お前がここに?


とでも言わんばかりの表情で。


彼は扉を開けた状態で硬直している私を見据え、

一瞬、視線を外した。

そして、いつもの鋭い視線に変わり、

私の元へ優雅なストライドで歩き出した。


「帰るぞ」

「……はい」


私達はお互いにそれ以上会話をする事なく、

―――――その場を後にした。


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