オレ様専務を24時間 護衛する


「お待たせしてごめんなさい」

「あっ………いや」


真面に視線を合わせる事すら出来ず、

俺は彼女の手元ばかりを見ていた。


スタッフにアイスティーを注文し、

椅子に座り直した彼女。


そんな彼女の一挙手一投足をジッと見つめ、

会話する事さえ忘れていた。



すると、


「あの、話とは……?」

「えっ?………………あぁ」



彼女の登場に

脳内の細胞が職務を放棄しているかのように

自分ではどうにも出来ない程の緊張に襲われた。



――――――たかが、『女』相手に。


されど、目の前の彼女は『あの子』だと思うと……。



俺は完全に溶けきった水っぽい珈琲を口にして、

自分に言い聞かせるように生唾を呑み込んだ。



そして……―――……。



「コレはお返しする」

「へ?」

「言い方が悪いかもしれないが、男の俺が持っていても使い道も無ければ、持っていたいとも思わない」

「………」

「持ち主に返すべきかと……」

「持ち………主………に……」

「あぁ」


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