オレ様専務を24時間 護衛する


彼は人差し指をクイッと曲げて、

手首を上下に何度も振って見せた。


―――――下で待たせておけ


そういうこと………何だよね?

私は彼をじっと見据えたまま、



「ロビーでお待ち頂くようにお願い致します。取引先との電話が終わり次第、向かわれるとの事です」

「…………はい、分かりました。そのようにお伝え致します」



三上さんの困惑の表情が目に浮かぶ。

だけど、こればかりは仕方ない。



内線を切ると、目の前の彼が今度は私に合図をして来た。



「はい?………何でしょう?」


通話には差し障りの無い小声で呟きながら近づくと、

彼は徐に首元に人差し指を掛け、するりとネクタイを解いてしまった。


そして、それを机の上に置いたかと思えば、

引き出しから数本ネクタイを取り出し、選び始めた。



恐らく、デート仕様のネクタイを選んでいるのだろう。


そんな風に女性に対して身だしなみに気を遣う彼を見たのは初めてで……。

何とも胸の奥が切なくなった。



これって、息子の成長を歯がゆく思う母親の心境ってやつ?


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