オレ様専務を24時間 護衛する


夜風に当たりながら、自宅への帰り道。


ふと夜空を見上げると、煌々と輝く望月(満月)。

その何とも美しい様は俺の心を見透かしているようで……。


本当にこれで良かったのだろうか?

ふとそんな事を思ってしまう。



あんなにも逢いたくて焦がれた人が手の届く距離にいて、

しかも、俺の事を見てくれている。


とうの昔に諦めていただけに、

何だか、心ここにあらずというか……。

全てが夢のような気がして、現実味が無い。


まるで他人事のようで……。





玄関のドアを開けると、

いつもと変わらぬ日常がそこにはあった。



きちんと揃えられているルームシューズ。

柔らかい灯りのダウンライトに照らされた廊下。

24時間自動運転している空気清浄器。


そして、いつもと変わらず……―――……


「お帰りなさいませ。早かったのですね」

「………あぁ」


キッチンで明日の朝食の準備をしている松波の笑顔。

何故か、こいつは料理を楽しそうにこなすんだ。


「松波」

「はい」

「悪いな、軽めの物を頼む」

「えっ?………あっ、はい。直ぐにご用意致します」


< 437 / 673 >

この作品をシェア

pagetop