オレ様専務を24時間 護衛する
夜風に当たりながら、自宅への帰り道。
ふと夜空を見上げると、煌々と輝く望月(満月)。
その何とも美しい様は俺の心を見透かしているようで……。
本当にこれで良かったのだろうか?
ふとそんな事を思ってしまう。
あんなにも逢いたくて焦がれた人が手の届く距離にいて、
しかも、俺の事を見てくれている。
とうの昔に諦めていただけに、
何だか、心ここにあらずというか……。
全てが夢のような気がして、現実味が無い。
まるで他人事のようで……。
玄関のドアを開けると、
いつもと変わらぬ日常がそこにはあった。
きちんと揃えられているルームシューズ。
柔らかい灯りのダウンライトに照らされた廊下。
24時間自動運転している空気清浄器。
そして、いつもと変わらず……―――……
「お帰りなさいませ。早かったのですね」
「………あぁ」
キッチンで明日の朝食の準備をしている松波の笑顔。
何故か、こいつは料理を楽しそうにこなすんだ。
「松波」
「はい」
「悪いな、軽めの物を頼む」
「えっ?………あっ、はい。直ぐにご用意致します」