オレ様専務を24時間 護衛する


今でも覚えている。

彼と会話した……最初で最後の言葉。


『さようなら』でもなく『またね』でもない。


『………ごめんね』



彼はそんな言葉どうでも良かったと思う。


私が密かにお姫様になりたかった事も

彼の横顔をこっそり見ていた事も

彼の家の庭に咲いている花々や木々に癒されていた事も

そして、私がここへ来るのが『今日が最後』だという事も。



意地っ張りな性格が災いして、

虚勢を張った言葉を吐き捨ててしまった。



そんな言葉、言うつもりなんて無かったのに。


悲しそうに見つめる彼の瞳が何だか自分と似てる気がした。



そして、私の事を記憶の片隅にでも覚えていて欲しくて、

当時、女の子に流行っていた『ほっぺにチュ』をしたの。



『ありがとう』という意味だと知っていたから、


……ワンピースを着る機会をくれて、ありがとう。

……お姫様気分を味わわせてくれて、ありがとう。

……私を凶暴扱いする事なく、隣りに座ってくれて、ありがとう。


そんな想いを込めて……彼にキスをした。


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