オレ様専務を24時間 護衛する
「さっき、希和はこのヘアピンを無くした経緯をお母さんに聞いたわね?」
「うん」
「無くしたピンがこれなのか証拠は無いけど、恐らく、このピンは無くしたんじゃなくて、奪われたものよ」
「……へ?」
『奪われた』って、どういう事?
全く身に覚えが無いんだけど……。
「お母さん、奪われたってどういう事?」
母親の顔をじっと見据えると、
溜息混じりにゆっくりと話し始めた。
「御影さんのお屋敷に最後に行った日……覚えてる?」
「………うん、覚えてる。私の8歳の誕生日の日だよね?」
「そう。あの日、お父さんに言われて、希和は京夜さんに最後の挨拶をした筈よ」
「……うっ、うん。……挨拶って感じじゃ無かったけど……」
「希和が号泣したのは……その日、お屋敷から帰る直前だったわ」
「え?」
「それまで、格闘技で誰にも負けた事が無かった希和が、女の子に髪の毛ごと掴まれ毟り取られたって、希和はわんわん泣いたのよ?」
「えっ?………私が?」
「えぇ。でも、お父さんが希和に『ピンごときで泣くんじゃない!』って一喝して、希和は必死に涙を堪えてたわ」
「………そんな事……全く覚えてない」
「それは多分、子供心に『悔しい想い』を記憶から消したかったんじゃないかしら?……負けた悔しさと取られた悔しさで。……よく言うじゃない、精神的ショックで記憶の一部が消失するって」
「………」
「元々、闘争心はあまり無い方だったし、負けても『次、負かしてやる』ってな感じの子じゃ無かったしね」