オレ様専務を24時間 護衛する


「ご旅行だったのですか?」

「へ?」

「最近、お姿を拝見しておりませんでしたので……」

「いえ、違います。実家に帰ってました」

「そうですか。御影様もさぞ、お喜びになられる事でしょう」

「………」

「それにしても、鍵を無くされたのですか?」

「え?あっ……はい、まぁ、そんな所です」


さすがに彼に返したとは言い辛い。

返したと分かれば、マンションから追い出されかねないからね。



彼は、荷物の受け取りや本宅からの食材を届けてくれて

いつもお世話になっていた方だった。

このマンションの最上階。

しかも、このマンションは御影グループ所有の建物らしく

その主の家に住む私をしっかりと覚えてくれていたという事。


世の中、行き当たりばったりでも何とかなるモノなのね。


エレベーター前で会釈し、彼からスーツケースを受取った。



そして、エレベーターに乗り込んだ私は

迷う事無く、最上階へと向かう。



口から心臓が飛び出してしまいそうなくらい緊張して

思わず、大きな口を開けて


「アエイウエオアオ、アエイウエオアオ……」


発声練習のように何度も口にした。




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