耳飾りの女
からん、と背後でまた扉の開く音がした。

「あの……」

聞き覚えのある声。

振り返る。
そこに立っていたのは、バーテンダーの青年だった。

「これ、落としたでしょう?」

柔らかな色気を含んだ声。
彼の手の中には、私の右耳につけていたはずのダイヤのイヤリング。

私は驚いた表情を繕って、

「ありがとう」

と、微笑んだ。

電話を切ったときに、ワザと落としたものだった。

彼が追ってくると予感して。

「もう一杯だけ飲んでいきませんか。奢らせてください」

「ひとりは寂しいの」

私がぽつりと言うと、彼は頷いた。

「話し相手になれると思うよ。ふたりで飲み会しよう。そして、いろんな話をしよう」

彼は敬語を捨て去って、私の耳にイヤリングをつけた。
キラリと輝くダイヤのそれを揺らし、私は彼について行く。

だって、そうしたかったから。





―おわり―
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