今夜彼氏に抱かれる前に

「教授!」


肩を揺らすと、うっすらと目を開けた。



「おはようございます。コーヒー飲みますか?」


「…ああ…頼む。」



寝ぼけ眼でそう呟いた教授は、ゆっくりと立ち上がり歩き出す。


どうやらトイレに行くようだ。



「…ふぅ。」

軽いため息をついてからコーヒーを入れ、いつもの様に散らかった本を戻す作業を始める。



静かな館内を歩いていると、携帯が鳴った。



「もしもし。」

『加奈子?!何も旅行当日に教授の手伝いなんてしなくても――』


それは彼氏からの着信だった。



「大丈夫、遅刻はしないから。お昼に待ち合わせでしょ?」

『そうじゃなくて、もうすぐ大学も卒業だろ?そろそろ手伝いなんて断れよ。』



「――そう…ね…」


その時、大きな手が伸びて来て、後ろから私を抱き締める。


震えそうになる声を必死でごまかす。



「多分、これで…最後だと思う。」

『――分かった。じゃあ、後で。』


「…うん。」


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