ナキムシとポチ
「史也」
「・・・はい」
初めて呼んだ名前。知ってたことに驚いたのか、呼んだことに驚いたのか返事に間が空く
よぉ、完璧野郎
おまえそーいや一個超間抜けなこと知らねえままだった
「おまえ、なんであの時『ワン』だったわけ?」
「へ?あ、ああ!・・・だってポチの代わりならやっぱりそう鳴くしか」
「ポチが犬だなんていつ言った?」
史也の笑顔が固まる
俺は吹き出しそうなのを我慢して、その均整のとれた顔がひきつるのを見てた
「金魚だぜ。ポチって」
「えええぇぇ――――――!!!!!」
いつ言おうかと思ってタイミングを逃してた事実を伝えると、顔を真っ赤にして叫ぶ史也
ダメだ我慢できねぇ
腹痛ぇ、ってぐらい笑ってやった
さっきの仕返しに
「ちょ、金魚?!え、先輩マジに?!ソレおかしくないですか?!金魚にポチって!!」
「知るかよ。じーちゃんがつけたんだよ」
とりあえず、俺とコイツの間で変わったことといえば
名前で呼ぶようになったことと、
今手を繋いで歩いてるってこと
ペットはいなくなったけど
代わりに俺には自分と同じぐらい長く生きる大事なやつができた
終わり