ピエロ-私と中年男の記録-
店内
「いらっしゃい。」

ドアを開けると、ふっくらした女性二人が立っていた。

「娘よ〜。」

機嫌良く言う母。

「まぁ。べっぴんさんやなぁ。」

ふっくらした二人が声を合わせて言った。

一人がここのママで、一人がその娘らしい。顔はそっくりで、同じ様なドレス。

私は、隣の小さな部屋へ案内された。

一面の棚に沢山の布が置かれていて、喫茶店内で布屋も営んでいるんだと思った。

私はその部屋で漫画を読むことにした。喫茶店なので漫画は沢山あるし、隣で煙草臭い大人達の中にいるよりかはマシだ。


読んでいると

「面白いで?」

急にママが顔だけ出して様子を何度も見に来る。ビックリして中断がお約束。

「外にお菓子とるゲームがあるよ。お母さんに言うてみ。」

そう言って、ママはひっこんだ。ママの後から母の所へ行ってみた。

煙草の煙の中、キラキラした目のおじさんと目が合った。

1つの出会いだった。


忘れきれない出会い。


母は、そのおじさんに私を紹介している。おじさんは私の顔を見て、

「べっぴんやなぁ。」

母は笑っていた。

その日はその後すぐ帰った。

車の中で

「あそこに来る人は、皆良い人。」

母は何回か言った。

にこにこしながら運転する母の横顔はとても幸せそうに見えた。
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