ピエロ-私と中年男の記録-
好き
一週間後、母が誘ってきてくれた。

「また三人で行こうか。」

私は妹と喜んだ。

またおじさんとゲームで遊べる。


「なんとなく行った場所」が、「好きで行く場所」に変わっていた。


宿題のあだ名は決まっていなかった。ピエロで、おじさんと、母と考えようと妹に言った。

「皆、優しいだろ。」

母が運転しながら言った。

「うん。あのラムネの人優しいなぁ。」

妹が言った。

「あぁ、カジさんのことやな。」

母はにこにこして言った。
カジさんて名前なんかぁ。

「好きになったで??」

母が更ににこにこして聞いてきた。

「好き……ほんなん違うけど。」

私は恥ずかしくなって、少し怒って否定した。


「いやー、ねーちゃん、照れてしもたわー。母さんは好きよ、カジさん。」


私は焦った。子供だったから、「好き」の種類なんて、知らない。

「父さんは。」

私は母を睨んだ。


「まぁー。ねーちゃん、可愛いなぁ。母さん、父さんが一番よ。あんな男前、おらんわよ。」


ほな、何で別の人を好きや言うん。

馬鹿にされると思って、声に出せなかった。


「あそこに来る人、皆好き。皆、良い人。皆、母さんの友達よ。」


母はまた、優しく微笑んだ。
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