残酷Emperor
ーー2012年 12月×日。
桐嶋診療所前。PM6時半。
「ねー、やめよ。やっぱ帰ろ」
私は健二(けんじ)の袖を引っ張る。
「あ? 駄目だ、ここまで来たらやるしかない。……朱実……行って来い」
健二はそう言い、私の背中を押した。
私は溜息を吐いて振り返る。
「……ねえ、健二、いいじゃん別に。テストの点桐嶋さんにバカにされたくらい……」
すると健二の顔は見る見る赤く染まった。
薄闇でも分かる、彼の、赤い顔。
「……なっ、ふ、ふざけんなよ! クラス中に俺の点数が公になったんだからな! あの女のせいで……」
私は健二をチラリと見た。
健二は相当、あの時の事を根に持っている。
私はと言うと桐嶋宅を見据え、“はああ"と感嘆した。
今時では珍しい、昔の洋画に出てくるような、洋風チックな家だ。
何処ぞの貴族が住んでいるのだろうか……と大袈裟かもしれないがそう思った。
こんなとこに“彼女”はーー。
ーー桐嶋綾乃(きりしまあやの)
それが彼の恨む相手だ。
驚く程の美人にて頭脳明晰。
医者の娘と言う肩書を持つ、誰もが羨む才色兼備な女の子だ。
そんな彼女に、点数を鼻で笑われた挙句、クラス内で公表された惨めな男が彼、鈴木健二(すずきけんじ)である。
だが、悪いのは綾乃さんではない。
彼の点数を訊いた“奴ら”が悪いのだ。
健二の前にテスト用紙を返された綾乃さんは点数を思わず見てしまったのだろう。
だが頭の良い綾乃さんは何故わざわざみんなに聞こえるように彼の点数を言ったのか……。
それも、“20点"と。
健二が怒るのも無理ないが、もし彼女に悪気が無かったとしたら……逆恨みに近い。
「ねー、健二。桐嶋さんも確かに大人げ無かったたけどさ……、やめようよ、嫌われるだけだよ」
もう早こんな事を数時間続けている。
いくら、幼馴染で腐れ縁と言ったって、さすがに私もイラついてきた。