秘密の恋
カメラの前で、私は常に真剣だ。
抱きしめて想いを伝える大事な場面を、劇団の後輩Tは台本通りに演じて
くる。
監督の指示どおりに演じられる器用な性質が、彼の演技を浅いものにして
いるが、私はTにもっと深い演技をして欲しいと願っていた。
「ちゃんと抱きなさい」
「えっ?」
「気持ちが入ってないわ」
「……気持ちですか」
Tが思案の顔になった。
休憩のあとTの演技が変わった。
私を抱きながら指先が背中の窪みを伝い、台詞の合間に熱い息をもらす。
絶妙な間合いで、好きです……とささやかれ、体の芯に火がついた。