婚約破棄
「……僕も彼女にフラれたんだ」

僕が言うと、彼女は少し驚いたように目を見開いてから、クスリと笑って腕を絡めてきた。

「飲みましょ」

「君は恋人いるの?」

「いるわよ。だから、今日は慰めるだけ」

シビアに彼女は言ったけれど、僕は内心ホッとしていた。

僕の恋人も彼女ひとりだ。永遠に。

もうこの世にはいないけれど……。

「乾杯」

彼女のグラスにチンッと澄んだ音をたてて合わせる。

今はこの慰めに甘えよう。
服に染みついた恋人の血の臭いに、この美女が気づくまで。


―おわり―
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