見えない誘惑
「俺、用があるから行かねぇ」

「しようがねな……で、井川はどうする?」

 同僚は水谷の即答に唖然としながらも、私の予定を聞いてくる。

 それと同時に、水谷は握りしめていた私の手のひらを官能的になぞった。

「あっ……」

 思わず声を出してしまいそうな誘惑を、私は唇を噛み締めて堪える。

 ――今、ここで二次会に行かなければ……きっと、彼を裏切ってしまう。

 ふいにそんなことを考えてしまうなんて、どうかしていると思った。

「井川もパスな。こいつ、酒に酔ったみたいだから」

「具合が悪そうだぞ? 大丈夫か?」

「うん……でも、酔ったみたいだから、このまま帰るね」

 顔が赤いのは、水谷の見えない誘惑のせい。

 だけど、そんなことを言えるはずがなく、結局、私はそのまま帰ることになった。
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