【中編】桜咲く季節に
さくらは洗濯機を覗き込んで話しかけていたらしい。

しばらくその状況が呑み込めず観察していた翔だが、流石に次の瞬間、目が点になり言葉を失った。

「どうなさったんですか? 動いてくださーい。こうやって動くんですよー?」

さくらは洗濯機に手を突っ込んで手動で回転させながら、洗濯の仕方をレクチャーしていたのだ。

どうやらコンセントの抜けた事に気付かず、動かない洗濯機を前に困った彼女は、自分が記憶を失くした様に洗濯機も洗濯の仕方を忘れたのではないかと思ったらしい。

少々の事には慣れた翔だったが、これには流石に美羽同様、クッションに顔を埋め、腹筋と大胸筋が痙攣するほど笑った。

その後、30分ほどレクチャーを続けたさくらは、ようやくコンセントが外れていることに気付き、無事洗濯をすることが出来たのだが

「まあ、お腹がすいていたのですね。気付かなくてごめんなさい」

と、洗濯機に本気で謝る姿は、ようやく笑いが治まりかけた翔の笑いのツボを再び突いてしまった。




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